中華料理の高級コースでキヌカサダケのスープというのを頂いた。そのときまで、キヌカサダケはキノコの本でしか見れない存在だった。感慨ひとしおだった。
六月の末頃から、竹林に発生するというそのキノコは、一目でその姿を記憶してしまった。にょっきり伸びた白い柄のまわりに純白のレースをまとった形をしている。
キノコの女王様とでも呼ばなくてはいけないなと思ってしまう。
だが、写真を見てそう思うのだが実物にはお目にかかったことがない。それが、突然、中華の珍味として登場したから驚いた。澄んだ褐色のスープの中にレース状のものもちゃんと浮かんでいた。
おいしかった。
いや、キヌガサダケに味があるのかどうか定かではないが、それまでの憧れの気持ちも加わってか至福の味覚だと思えたのだ。
それから現在まで、やはりキヌカサダケに会えてはいない。一度会いたい。優美な姿をこの眼で見てみたい。そんな願望がつもりつもっている。
昨年九月上旬のこと。県北の渓谷を歩いていて、わが眼を疑った。
なんと、雑木林の間にキヌガサダケらしきものが見えた気がした。一本だけぽつんと。
まさか?
あわてて近付く。ここは竹林じゃないぞ。キヌガサダケは、梅雨の終り以降の時期だよな。もう初秋だぞ。
まちがいなくキヌガサダケだ。スッポンダケが大きい網目のレースをつけているような姿だ。やっと会えた。
身体がぞくぞくした。あわてて、持っていた携帯電話のカメラで、その姿を写す。
そのときになって初めてオヤ?と思う。
全体が薄く黄色がかっているのだ。
私が頭脳にインプットしているキヌガサダケは純白だったはず。ということは、これは亜種?
とって帰って食べようか?それともここに残しておくべきか。頭の中は葛藤でぐるぐる巻きだ。帰って図鑑で調べてわかる。ウスキキヌガサダケというのだ。
だが、キヌガサダケよりも珍しい種類らしい。そうだったのか?では、よしとしよう。
で、食えるかどうかというところでは、(不明)になっていた。
あのとき私は、自然を保護したのだ。そう自分に言い聞かせている。
梶尾真治 |